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ディープエンド・オブ・オーシャン/The deep end of the ocean '99(米)

ディープエンド・オブ・オーシャン/The deep end of the ocean \'99(米)_c0008209_11324891.jpg原作のミステリー小説(ジャクリーン・ミチャード著「青く深く沈んで」)を読んだ際、あとがきにミシェル・ファイファー主演で映画化決定とあって楽しみにしていたにも関わらず、先日ビデオ屋で見つけるまで存在を忘れていた作品。
読み応えのある原作に劣らず、原作の味わいを損なわず、じっくり考えさせられる上質な作品に仕上がっていた。

3歳の時に失踪した一家の次男が、
9年後に偶然一家の引越し先の近所に住む少年として現れた。
絶望の淵に突き落とされ、それぞれが心に傷を負ってバラバラになりかけていた家族に、次男の突然の生還が再び波紋を投げかける。

ウィスコンシン州に住むカッパドーラ家は夫婦と7歳のヴィンセント、3歳のベン、赤ん坊のケリーという幸せな5人家族。ある日、ベスはシカゴのホテルで開かれる高校の同窓会に子供3人を連れて出席する。久々の再会に浮き立つ人々でごったがえすホテルのロビー、ベス自身も懐かしい顔ぶれと次々に挨拶を交わして興奮気味だった。
この場面の演出が上手い。ミシェル・ファイファー演じるベスが高校時代、美人だが気取らず親しみやすい人気者だったこと、今は幸福な家庭生活に満足しつつも、3人の子育てに追われる平凡な日々に疲れと物足りなさを感じてもいること、同窓会で久しぶりに都会へ出て「今日はとことん楽しむわよ!」と意気込んでいることなどが短い時間で観客に伝わるのだ。ベスの、確かに美人だけど、どこか垢抜けない主婦という感じがリアルでいい。

長男ヴィンセントに「しっかりベンを見ててね」と命じてチェックインしに行くベス。
フロントにたどり着くまでにも何度も振り返って子供たちを視界に入れている。
ところが、チェックインして戻ってくると次男のベンがいない。
長男を問いただすと「行っちゃった・・・」。
まだ深刻に取らず、内心「だからちゃんと見ててって言ったのに、もう!」と長男に対して軽くいらだちを見せるベス。
だけど長男とはいえヴィンセントもまだ7歳である。

私事になるが、わたしは4人姉弟の長女で、いつもしっかりと妹たちを見ている役目を負わされていた。母が買い物中にスーパーの外で妹と待っていて、妹が急に鼻血を出して泣き出した時、どうすればいいのかわからず途方にくれたこと、よちよち歩きの次女とベビーカーに乗った三女にばかり注意を向けていた母がわたしのことをすっかり忘れて置き去りにして帰り、迷子で交番に保護されたこと・・・・
当時の心細さと不安感を思い出してヴィンセントの気持ちが痛いほどわかるのだ。

結局ベンは忽然と姿を消し、警察のみならずボランティアの捜査本部まで設置して大々的に捜査を行うがそれっきり見つからない。
ここからは、観客の立場によって誰に感情移入するかが分かれるだろう・・・




子を持つ母親ならベスに、父親なら夫に、そしてわたしは当然長男ヴィンセントに感情移入しっぱなし。
弟の失踪に罪悪感を抱き、嘆き悲しむ母親をなんとか慰めようとするヴィンセント。
しかしベンの不在で抜け殻のようになってしまったベスには彼の存在などほとんど眼中にない。そのことを敏感に察知したヴィンセントは次第に堅く心を閉ざしていく・・・。

一般的に、親は上の子供より下の子供を可愛がると思う。(特に同性の場合)
下の子は無邪気に振る舞い、甘えていればそれだけで許されるが、親は上の子に対しては可愛がる対象というよりも自分のサポート的役割を求め、つい過大な責任を負わせる。責任は果たして当たり前で、できなければ親に失望され厳しく叱責されることも・・・
上の子供は親の愛情や関心にとても敏感で、それが下の子供には無条件に注がれるのに、自分には条件つきに(親にそんなつもりはなくても)感じられることに常に不当な怒りや悲しみを感じているのだ。
親はそれをわかっているのだろうか?いや、ほとんどわかっていまい。
ああ、つい子供時代のトラウマのせいで興奮してしまった・・・映画のことに話を戻そう。

崩壊寸前だった一家もなんとか再生したかのように見えた9年後、
シカゴに引っ越したカッパドーラ家に「芝刈りのバイトはありませんか?」と近所の少年が訪ねてくる。
サムと名乗る感じのいい少年、それこそ家族の前から忽然と消えたベンだった。
ここからがこの映画の本筋。
ベンの失踪の謎解きもさることながら、
突然他人から「あなたはわたしたちの息子なのよ」と言われたサム(ベン)の混乱。
いなくなったことでかえって大きな存在感で家族を苦しめていた弟の生還に戸惑うヴィンセント、そしてサム(ベン)を実の息子として愛し育ててきた父親etc・・・
それぞれの心理をていねいに見事に描き分け、さらに爽やかで誰もが納得のいく結末になっているのもいい。


’07 8 DVD ★★★★☆
監督:ウール・グロスバート
出演:ミシェル・ファイファー、ウーピー・ゴールドバーグ

by Gloria-x | 2007-08-30 11:39 | 映画レビュー