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下流の宴/林真理子

このリアルさ!林真理子だからこそ書けた「格差社会」
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おもしろすぎて2日で一気読み!
でも、いろんな意味でかなり複雑な気分にもなります・・・(-_-;
ものすごくリアルだし、ものすごく丹念に取材してるし、
著者が実体験や豊富な人脈を通して培ってきた諸々が
集大成として生かされているという感じ。

医者の父を10歳で亡くした由美子(48歳)は母から事あるごとに
「お父さんさえ生きてくれていれば
お医者様のお嬢さんだったのにねぇ・・・」と言われて育つ。
やがて由美子は社内恋愛を経て結婚し一男一女をもうける。
いい大学を出てきちんとした会社に勤める夫、そして子供。
自分たちはどこに出しても恥ずかしくない
品と教養のある中流だと信じていた由美子だったが、
いつの間にか下流に落ちていたことに気づいて愕然とする


由美子一家の変化のきっかけは息子の翔だ。
私立の中高一貫校で高校生になったとたん中退。
やりたいこともなく、欲しいものもなく、努力も嫌いで、口癖は「別にぃ・・・」
ずるずると20歳になった翔は漫画喫茶でアルバイトし、
一生バイト暮らしでいいとさえ言う無気力さだ。

娘の可奈は翔とは正反対だ。
小学校高学年の時に自らお嬢様学校として有名な私立を
受験したいと言い出すが親に反対され、やむなく公立の中高へ。
しかし大学進学時に再びこう言う。
「下手に偏差値が高い大学を狙うより、
お嬢様学校のブランド力がある大学へ行ったほうが得」
なぜなら、若くキレイなうちに高学歴・高収入の男をつかまえて結婚し、
安楽な生活を手に入れてから、やりたいことを見つけるため。
そして、実際に恵まれた容姿をフルに活用し、
エリートたちとの合コンに明け暮れる。
とことん合理的で明確である。

由美子の価値観を作ったのは母親である。
父の死後、母は「医者の未亡人」として父の実家の援助で暮らさず
潔く家を売ってアパートに引越して働き、
女手ひとつで娘2人を大学進学させ、自力で家まで建てるのだ。
この母親は後に登場するが、かなり魅力的なキャラクターである。
彼女は同じアパートに住むよその子供達について
娘たちに繰り返し言い聞かせる。

「ああいう子たちとは住んでいる世界が違うのよ。
世の中にはずうっとアパートで暮らす人と、ほんの一時期暮らす人がいるの。
このアパートで生まれ、このアパートで育った人たちとは根本的に違うのよ」

両親の価値観の刷り込みや
方針・判断(後年、確固としたものではなかったことが判明しても)が
いかに強力で、子供の人生を長きにわたって支配するか
わたしも恐ろしいほど身に沁みて知っている。
子供が自力で気づいた時には手遅れなことも多い。
だから、わたしのそれと形は違えど、由美子がこの年齢で、理屈ではなく
母の呪縛から逃れられないのはよくわかる


翔がオンラインゲームで知り合った珠緒という娘と
結婚したいと言い出したことから騒動は始まる。
珠緒は沖縄の離島で生まれ育ち、高卒で上京してアルバイト暮らし。
沖縄では珍しくないらしいが両親は離婚し
共に別の相手と再婚したので兄弟姉妹が合計8人いるという。
こんな珠緒のバックグラウンドは由美子には問題外。

「教養がなくて下品でお話にもなりゃしない。育ちが違うのよ育ちが」
「それってヤンキーじゃない。そういうのが妹になるかと思うと頭がクラクラしてくる」
そういう可奈も、母に対して辛辣な言葉も忘れない。
「でも教養がないって言っても翔だって中卒じゃない。
世間から見れば「下流の人々」よ。同じ位置に立ってるのよ」

翔の結婚を阻止したい由実子は珠緒に言う。
「うちは主人も私も大学を出ています。
主人は早稲田を出て一流企業に勤めるちゃんとしたサラリーマンです。
私も四年制の国立を出ていますから、
教養あるちゃんとした家だと誰にも言えるわ。
そしてね、私の父親は医者だったんです。
父親の兄も、私の妹の夫も医者をしています。
言ってはナンですけれども、沖縄のどっかの島で
飲み屋をしているあなたの家と違うんですよ」

「医者の娘っていうだけで、そんなにいばれるんですか。
そんなに医者ってえらいんですね。じゃ、私も医者になります」

自分と家族を全否定され、侮辱された珠緒が思わずこう啖呵を切り
高卒アルバイトの22歳で医大受験をめざすところから
話はまたどんどんおもしろくなっていく。
そうそう珠緒というキャラクターだが、最初こそ「うわー」と思うが
実はクレバーでまっすぐで好感のもてる魅力的な人物である。
そして結末は・・・

'10 7 ★★★★★

by gloria-x | 2010-07-22 14:49 | ブックレビュー