カテゴリ:ブックレビュー( 184 )

超訳 ニーチェの言葉/フリードリヒ・ニーチェ 編・訳:白取春彦

企画力に拍手!

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ものすごく売れてるらしいですね。
実際手に取ってみるとベストセラー納得です。
こういう風にピックアップしてくれると
読みやすいし、スポンジが水を吸収するように入ってくる。

寝る前、ベッドで少しずつ読んでいます。
わたしのお勧めは

一日の終わりに反省しない
一日を振り返って反省なんかするとろくなことにならない。
なぜなら単に疲れているからだ。さっさと寝るにかぎる。
シンプルで気持ちいい!

始めるから始まる
とにかく始めなければ始まらない、まず動け。
ほんとにその通り!
そこから意外な展開に転がったりするもん。

必要な鈍さ
こちらが気を遣っているふうには決して見せない。
相手よりも鈍い感じでいる。
これらは社交のコツであるし、人へのいたわりともなる。

わたしも実体験からずっと同じことを考えてました!
「真にすごい人ほどすごそうに振る舞わない」と。

力を入れすぎない
自分の力の四分の三ほどの力で、作品なり仕事なりを
完成させるくらいがちょうどいいものができあがる。

実際にわたしのモットーです♪
何事につけ、力みすぎは押し付けがましく暑苦しいもんね。

人のことをあれこれ考えすぎない
あの人はどうのこうのといつまでも考えないこと。

実はこれが難しいんだな、課題ですね。

満足が贅沢
エピキュリアンの語源となった哲学者エピキュロスが
快楽を追求してたどりついた満足の頂点は
小さな庭、数本のイチジクの木、少しのチーズ、3~4人の友達。
これだけで充分に贅沢に暮らすことができた。

すごく共感する!理想の人生です。

他にも鋭いフレーズがいっぱい。
読む時の自分の状態によって、心に響く言葉が違うのも◎
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by gloria-x | 2010-11-05 13:41 | ブックレビュー

ぼんち/山崎豊子

船場ぼんぼんの女道楽、スケールのデカさに驚くやら感心するやら

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子供の頃、津川雅彦主演でドラマ化されていたのをうっすら憶えている。
映画版は市川雷蔵だったそうで、昔の役者すぎてピンとこないけど
津川雅彦はこの役にぴったりだったのじゃなかろうか。
わたし的には中村勘三郎(元・勘九郎)の若い頃をキャスティング。

船場界隈はわたしも昔から馴染みが深く愛着のある大好きな街。
鰻谷、長堀橋、心斎橋、新町、上本町、下寺町などなど
今も生活圏の地名が次々出てきてルートマップも目に浮かび楽しめた。

~大阪では良家の坊ちゃんのことを、ぼんぼんと言うが
 根性がすわり地に足がついたスケールの大きなぼんぼんを
 ”ぼんち”という敬愛をこめた呼び方をする~


船場で四代続いた足袋問屋「河内屋」
五代目の喜久治に父親は死に際こう言い残す。
「ぼんぼんになったらあかん、ぼんちになりや。男に騙されても、女に騙されたらあかん」
丁稚あがりの婿養子旦那として辛酸をなめてきた含蓄のある言葉だった。

暖簾と財力が一切を支配する船場。
三代も母系を重ねた河内屋に君臨するのは喜久治の祖母・きのと、母・勢以。
きのの女帝ぶりがすごい!まるで「西太后」!

歳を重ねてもなまめかしく艶のある白肌を保つ美人で、恐ろしいほど権高で驕慢。
そして勢以はきのに甘やかし放題に育てられたお嬢で
実母の袖の陰からしたいこと言いたいこと三昧。
ああ、生まれ変わったらこんな身分になりたいもんです。

この女2人が常にぴったり寄り添って贅沢三昧したり、
小意地の悪い表情を浮かべて、喜久治やその妻、妾たちに
無理な横車を通したり残酷な仕打ちをするのだが
その描写が読みごたえ満点!
こういう密着母娘って現実にもたまにいるけど、
わたしには理解しがたい不思議な存在だ。

大事な暖簾を継ぐ直系の男子が生まれたら溺愛すると思いきや
父親が丁稚あがりで「種馬」扱いだったからか2人揃って喜久治には冷淡。


祖母と母の支配、船場のしきたりという重い枷をかいくぐり
喜久治は次々に女に手を出し、妾にしていく。
売れっ子芸者のぽん太、お茶屋の養女・幾子、
名仲居のお福、カフェのホステス・比沙子、舞妓の小りん
女たちのキャラクターが容姿も性格もバラエティに富んでいる。
わたしは陽気で抜け目ないけど裏表のないぽん太が好み。
地味で控え目だけどしぶとそうな幾子は辛気臭くってイヤだわー。

手を出したからには家を一軒買い与え、月々のお手当もたっぷり
着物や宝石はもちろん、女によっては馬主にしてやるなどすごい甲斐性!

とにかく喜久治の金遣いの豪快さ、きのと勢以の浪費っぷりに驚きっぱなし!
一回のお茶屋遊びや芝居見物に、今の感覚で数百万使うし
1000円あれば家一軒買えるという時代に
妾が男の子を産んだら5万円、女の子なら1万円ポンと与えるんですよ!
(ところで、こういう昔の小説を読むと貨幣価値がはっきり分からなくて困る。
再版した時に巻末にでもガイドをつけてほしい)

ラスト、妾たち4人が昼間からいっしょに風呂に入り、
お互いに体を流し合ったり、湯をかけてふざけあいながら
サバサバと自分の将来設計を語るシーンはイタリア映画のような趣を感じた。

'10 10 ★★★★★
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by gloria-x | 2010-10-15 23:01 | ブックレビュー

小さいおうち/中島京子

すべては最終章にあり。そこまでは長く緩やかな前奏曲。

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やられましたね~。
読み始めてすぐに
「なんでこれが直木賞?ていうか
中島京子がなぜわざわざこんな作品を?」
ずーっとモヤモヤしたまま7章を読み進み、
最終章で「はは~!そう来ましたか。やっぱり中島京子だ」と納得。
気持ちのいい感動すら覚えました。
今気づいたけど音楽なら「ボレロ」みたい。

昭和のはじめ、東京郊外の赤い三角屋根のある家で
女中奉公した日々を回想するタキ。
若く美しい時子奥様の側で過ごした日々が
タキにとっては最もしあわせで忘れがたい時代だった。
60年以上の時を経て蘇る思い出は懐かしく、切ない。
そして、ついに語られなかった真実とは・・・


田舎から東京へ出てきて女中奉公する主人公
若く美しい奥様、可愛いぼっちゃん
豊かでモダンな東京の生活が戦争によって激変する・・・etc
読みながら水村美苗著「本格小説を思い出すが、
あの作品が放つ独特の強烈なオーラはないしなぁ・・・

昭和という激動の時代を生きた女性の一代記だとしたら
姫野カオルコ著「ハルカ・エイティの方が断然おもしろいしなぁ・・・
(正直、こっちに直木賞あげてほしかった!)

ず~っとそんなことを考えながら、
言わば頭の中に大きな「?」を点滅させつつダラダラ読み進み
最終章に来て俄然座りなおして一気に読了。
中島京子がなんの仕掛けもしないわけないですね。
ま、それにしては前フリが長すぎる気もしないではないけど
読み終えてみると、やや退屈で平板な語り口と展開が
後でじわじわ効いてくるようにも思え、それも計算ならさすが!

'10 9 ★★★★☆
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by gloria-x | 2010-09-27 20:40 | ブックレビュー

オリンピックの身代金/奥田英朗

読み始めたら止まらない、息をもつかせぬサスペンス!

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「著者の新境地にして最高傑作」という帯のコピー通り!
あまりのおもしろさに、数日間むさぼるように読みふけりました。
映像化してほしいな~。映画がムリならWOWOWドラマで。
主人公・島崎にはオダギリ・ジョー(ただしもっと以前の旬の頃の・・・)

昭和39年夏。オリンピック開催に向けて
東京は世界に冠たる大都市に変貌を遂げようとし
国民は一丸となって戦後最大の国家的イベントに熱狂していた。
そんな中、警察を狙った爆破事件が発生し
「東京オリンピックを妨害します」という脅迫状が届く。
捜査線上に浮かび上がったのは一人の東大生だった。


「人間が描けていない」は、つまらない小説に対するお決まりの批評である。
売れっ子ミステリー作家の中にも該当者は少なくない。
ミステリーとしての設定や仕掛けには感心させられるが、
登場人物がステレオタイプだったり、キャラの作り込みが浅いために
読んでいて物足りなく引き込まれないのである。

その点、奥田英朗の人間を描く才能にはいつも舌をまく。
彼の作る登場人物は、まるで目の前に現れ、呼吸し、
動いているかのようにリアルで説得力がある。
また、様々なタイプの人間を自在に描き分ける技にも感服だ。


島崎国男は秋田の貧農出身。
中学を出たら長男は農業を継ぎ、次男以下は集団就職。
家を継いだ長男も農繁期以外は出稼ぎ。
それ以外に人生の選択肢はない。
しかし、勉強ができた国男は
中学教師の熱意によって奨学金で高校に進学。
さらに、東大に入って村では伝説の人物となる。

ある日、大学院生となった国男のもとに故郷の母から電報が届く。
15歳年上の長兄が出稼ぎ先の東京で死んだという報せだった。
牛や馬のように使い捨てされる過酷な労働環境を知り、
まったく夢も希望もない兄の人生に想いをはせたことが
国男にある決意をさせる。
それは兄の代わりにオリンピック特需の工事人夫として働くことだった。
そして、その体験が国男の人生を大きく変えてしまう。

日本がイケイケだった時代の風俗やファッションもおもしろい。
島崎と東大の同窓生でTV局勤務の須賀は
元華族の家柄で、父親は警察幹部という一族のはみ出し者。
ポロシャツにバミューダパンツで真っ赤なスポーツカーを乗り回し、
「C調」「しょってらぁ」「ブーヤでシース(渋谷で寿司)」などなど
セリフも時代感満点。

東京生まれのボンボンで、東大出なのにダサくない。
自分ではイケてるはずの須賀は
「どうしてあんな陰気臭い男に次々と女が訪ねてくるのか。
なんであいつばかり心配されるのか」と国男に軽く嫉妬する。
ちなみに国男は「歌舞伎役者のよう」と評されるような
長身痩躯の色白優男で、穏やかで物静かな青年である。

主人公・島崎国男のキャラが特に魅力的なのは言うまでもなく、
須賀のほか、警視庁の個性豊かな刑事たち、
「箱師」と呼ばれる列車専門スリで前科八犯の老人・村田、
東北出身の出稼ぎ労働者たちなど
多才な階層のバラエティに富んだキャラクターが登場する。
そして、そのどれもが圧倒的なリアリティを感じさせる。


私利私欲ではなく義憤のためにオリンピックを人質に取る島崎国男、
国家最大のイベントであり、国民の夢であるオリンピックを成功させるため
島崎の犯行を阻止し、逮捕しようとする警察。
どっちに感情移入し、味方したくなるかといえば・・・


'10 9 ★★★★★
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by gloria-x | 2010-09-12 14:00 | ブックレビュー

不信のとき/有吉佐和子

高度成長期のサラリーマンの倫理観ってこんなに乱れてたの!?


c0008209_13205282.jpgc0008209_1321390.jpg昭和40年頃の東京が舞台なのだが
まるで時代劇を読んでるほど隔世の感!

日本がすごい勢いで経済大国になっていく時代。
そこそこ大企業のサラリーマンとはいえ
ほぼ毎晩銀座のクラブをハシゴ、
妻にバレてもバレても何度も浮気、
ついに銀座のホステスに子供を産ませ、
自らを出世街道に乗り、女にはモテ、
甲斐性もあり器用な男だと
勝手に悦に入ってる主人公。
平成日本じゃ考えられない感覚です。


浅井義雄は企業の広告宣伝部の商業デザイナー(後に宣伝部長に出世)
専業主婦の妻・道子と結婚15年で子供はなし。
過去に取引先の女子社員や人妻と浮気(本人曰く本気の恋愛)をしている。
人妻の時は相手が妊娠したため、トボけて逃げたという最低の男である!
どの面下げて本気の恋愛なんだか・・・
しかも毎回妻にバレ、大変な騒動になったにも関わらず
「これから素人はやめよう」ですと?懲りない奴!

そんな浅井が銀座のバー(現在のクラブ?)の
ホステス・マチ子に「浅井さんの子供が産みたいの」と言い寄られる。
人妻とのことがあるだけに警戒する浅井だが
「認知はしなくていい、お金もいらない。わたし一人で育てて迷惑かけません」
と言われてその気になってしまう。

素人女はこりごりだけど、情事は楽しみたい。
外に女は欲しいけど、妾として囲うほどお金は出したくない。
子供はちょっと重いけど、責任取らなくていいなら「ま、いいか」
いったい何様?って感じなのだ。

とにかく主人公の浅井、名は体を表すの通り底の浅い男で
読めば読むほど自己中で薄っぺらな最低さに呆れてしまう!


マチ子は浅井にいつでもウェルカム状態で
手料理でもてなし、浴衣まで用意していたれりつくせり。
そんなマチ子に浅井は月3万円をお手当てとして渡す。
当時の3万円って今のいくらくらいなんだろう?
後に、マチ子に「ミルク代にしかならなかった」と言われ
道子には「3万円も渡してたんですか!」と詰られる。
ちなみに月給から小遣いとしてもらっていた金額が3万円である。
(浅井には会社に内緒のデザインのアルバイトで副収入がほぼ月給程度あるという設定)

臨月になるとマチ子は故郷の静岡に帰って出産。
つわりや出産時の苦しみなど醜い姿はいっさい浅井に見せず
すっきり晴れやかな顔で女の赤ん坊と共に浅井を迎える。
そのくせ、本気で浅井に惚れているという感じはせず、何か魂胆がありそうで、
いつ本性を現すのか、いつ浅井がハメられた!と凍りつくのか
かなり気をもたせるキャラクターだ。

一方、妻の道子は夫の心を外に向けさせないため
毎朝早く起きて完璧な化粧と着物で身だしなみを整え、
浅井が深夜に帰宅してもそのままの姿で迎える。
週刊誌を熟読しては「ムードのある寝室づくり」を実践したり
夫に朝からステーキなど食べさせてスタミナをつけたり、涙ぐましい努力である。

夫婦に子供ができないのは道子に原因があるという暗黙の了解で
浅井は「子供さえ産めば君は完璧な妻だよ」と無神経な発言で道子を傷つける。
夫に依存するより他にない主婦と思われた道子が
途中で女流書家として活躍していくあたりから話はおもしろくなってくる。

道子の父親は書道家で、代々加賀藩の祐筆の家系という設定。
家計の足しにと自宅で始めた書道教室が予想以上に繁盛し、
丸の内のカルチャーセンターの講師も依頼されるほどになる。

さらに、不妊症と思われていた道子が妊娠し、男児を出産するのだ。
経済力も浅井を凌ぐほどになった道子は家を増改築し、
息子の育児に専任の看護婦を雇う。
この時期の浅井のこっけいなほどの狼狽ぶりと卑怯さの描写も秀逸!

やがて道子が日展に入選。
美人女流書家としてマスコミにもてはやされる。
一方、マチ子は週刊誌で浅井の妻がただの主婦ではないと知り、
しかも子供ができていたことを知って
今までの控えめな態度から少しずつ変貌していく。
そして、ついに・・・

当時のサラリーマンの豪遊ぶりにもびっくりだけど
妻以外に子供を産ませることに対する軽々しい感覚にも驚愕!
現代のヤンキーカップルと変わらない、いや、もっと無責任かも。


浅井の取引先である印刷会社社長・小柳との会話で
夫婦間に子供がいないことを知ると、
小柳は当然のように「外には?」と尋ね、
浅井も悪びれず「実は一人いるらしいです」
すると小柳は驚きもせず、一人だけとは意外という風な顔をする。
それが浅井や小柳にかぎった感覚ではなく、
浅井の会社の重役たち、病院の付添婦、マチ子の弟夫婦をはじめ
「褒められることではないが、厳しく糾弾するほどでもない。
男性なら誰でも身に覚えのあること」と捉えているようで
一種の社会通念みたいな描き方をされているのだ。

昔の小説を読むと、たいてい
「あ~こんな窮屈な時代に生まれなくてよかった」と思うのが常だが
これは逆に
「日本ってこんなになんでもアリだったの?
今の若いもんの方がよっぽど純粋じゃん!」と安心した次第・・・



'10 9 ★★★★☆
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by gloria-x | 2010-09-05 19:25 | ブックレビュー

死の記憶 Mortal Memory/トマス・H・クック

ミステリーの域を超えたといってもいい、濃密で強烈な「家族の悲劇」
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図書館に予約した本がまだ届かず、いよいよ読む本がなくなってBook offで入手。

冷たい雨の降る午後、9歳のスティーヴは家族を失った。
彼がともだちの家で遊んでいる間に
父が母と兄姉をショットガンで射殺し、そのまま失踪したのだ。
事件から35年、父はついに逮捕されず、
スティーヴは建築士となり、結婚して息子をもうけた。
ある日、彼の前にレベッカという作家が現れる。
彼女は家族を皆殺しにした男たちについての本を書いていると話し、
唯一の生存者であるスティーヴに取材を申込む。
当時のことを少しずつ思い出していくスティーヴ
そして、幸せな家族が突然崩壊した真相とは・・・・


事件の日まで絵に描いたように「良き夫、良き父」だった男、
家庭人としてだけでなく、職場や近所で彼を知る誰もが
「絶対にそんなことをする人とは思えない」と驚愕する・・・
突然彼をそうさせたのはどんな衝動だったのか?
彼は日々何を望み、何を我慢して暮らしていたのか?

「家庭内殺人、その秘密と真相」と聞いて想像する
ありがちで安っぽい設定ではなく、しかも説得力がある!
「心臓を貫かれて」(こちらは実話だが)にも匹敵する強烈なひきこまれ感。


じわじわと少しずつ核心に近づいていく描写が
あまりにも小出しで思わせぶりなので、途中でややもどかしくなるが
緻密な構成と描写力、抑制のきいたトーンの中を
主人公と共に暗く深い過去を探索する感覚は強烈だ。
とにかく真相を知ってすっきりしたさに一気に読破。
また、家族とは、人生とは、運命とは、などについても考えさせられる
重厚かつ深遠な読後感である。

'10 8 ★★★★☆
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by gloria-x | 2010-08-12 17:24 | ブックレビュー

嘘、そして沈黙 LIE TO ME/デイヴィッド・マーティン

魅力的な本は何度読み返しても引き込まれる。原題も邦題もいい!

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手元の本を読みつくしてしまい、禁断症状を抑えるため本棚を漁って
以前読んだ本の中からピックアップ。
これは海外ミステリーの中でも出色の作品です。

ワシントン郊外の邸宅で実業家ジョナサン・ガエイタンが血まみれの死体で発見される。
彼はバスタブの中で自身を切り刻んで自殺したと断定されたが、
「人間嘘発見器」の異名を持つキャメル刑事は
ジョナサンの美しい妻・メアリーの供述の嘘を見抜き、秘密の匂いをかぎとる。
彼女は前夜、邸宅に侵入したフィリップという男の存在を隠していたのだ。

このあらすじだけでは平凡なミステリーみたいだけど
7月の暑い日、殺人鬼フィリップが「少女の手を握ったまま」
茂みに潜んで邸宅を見張る冒頭のシーンから
まるで映画を観ているように頭の中に映像が浮かび、
そのまま一気に物語世界に引き込まれてしまう。

「羊たちの沈黙」の伝統を受け継ぐと称されるサイコ・スリラーなので
殺人描写などはけっこうグロテスクだが
作品全体のトーンは静謐で大人っぽい。

人物造形も緻密で、各キャラクターの背格好から顔の造作、
着ている服、汗や体臭までリアルに感じられる描写もすごい。
ジョナサンを死に至らしめた想像を絶する秘密や
キャメル刑事が離婚した富裕層出身の元妻に抱き続けるコンプレックス
フィリップがモーテルで覗き見する幸福な一家など
人間ドラマも読み応えがある。


わたしの勧めでダーリンも読んでハマッたのだが
お互い「殺人鬼フィリップ」にある実在の男性をイメージしていて
それが偶然同じ人物だったことが判明!
駅でたまに見かける見ず知らずの人なのだが
2人で出かけた時にたまたま遭遇し
ダーリンが「あ、フィリップ」とつぶやいた時は鳥肌が立った!
こういうのも読書の醍醐味ですねー


とにかくバツグンにイメージ喚起力の強い描写に導かれ
映画を一本観終わった感覚で読了。
特に爽やかな読後感をもたらすエピローグが秀逸!
映画化されなかったのが不思議なくらいだ。

初版が1992年だからか、今回再読して
キャメル刑事の一連の行動や言葉使いに
モタつきと時代遅れ感を抱いたのが残念。


'10 8 再読★★★★★
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by gloria-x | 2010-08-05 14:02 | ブックレビュー

この本が、世界に存在することに/角田光代

本を読む人か、読まない人か。読む人でよかった、とあらためて思う。

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本への愛情をこめて書かれた9篇の短編集。

一緒に暮らしていた恋人に、好きな人ができたと告白され
主人公がまず口にした質問は「その人、本を読むの?」
恋人は「え」と少し驚いた顔をしてから
「読まない。読まないと思う。そういうこと、関係ないんだ」と答える。
同棲解消のために共有の本棚を整理しながら主人公は考える。


見も知らない人だけれど、
きっと馬鹿に決まっている。
だって本を読まないような人なのだ。
    
(彼と私の本棚)


この感覚、すごくよくわかる!
わたしは物心つくかどうかの年齢以来ず~っと
本が手放せない「活字中毒」である。

夜眠る前には必ず本を読むし、
遠出や旅行の際は必ず本を持っていく。
手元に読む本がないと落ち着かないのだ。
外出先だけでなく、家にいるときでも
もう読んでしまった本しかない、という状態は本当に困る。

本を読むから賢い、読まないからバカとは思わないけれど
本を読まない人のことは
なんとなく、打てど響かないというか
心の底からわかりあえないというか
自分とは別種の生き物のような気がしてしまうのだ。

本の一番のおもしろさというのは、
その作品世界に入る、それに尽きると私は思っている。
一回本の世界にひっぱりこまれる興奮を感じてしまった人間は
一生本を読み続けると思う。

(あとがきエッセイ)

わたしも完全にこれだ。きっと死ぬ直前まで本を手放さないだろう。

'10 7 ★★★★☆
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by gloria-x | 2010-07-30 23:01 | ブックレビュー

下流の宴/林真理子

このリアルさ!林真理子だからこそ書けた「格差社会」
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おもしろすぎて2日で一気読み!
でも、いろんな意味でかなり複雑な気分にもなります・・・(-_-;
ものすごくリアルだし、ものすごく丹念に取材してるし、
著者が実体験や豊富な人脈を通して培ってきた諸々が
集大成として生かされているという感じ。

医者の父を10歳で亡くした由美子(48歳)は母から事あるごとに
「お父さんさえ生きてくれていれば
お医者様のお嬢さんだったのにねぇ・・・」と言われて育つ。
やがて由美子は社内恋愛を経て結婚し一男一女をもうける。
いい大学を出てきちんとした会社に勤める夫、そして子供。
自分たちはどこに出しても恥ずかしくない
品と教養のある中流だと信じていた由美子だったが、
いつの間にか下流に落ちていたことに気づいて愕然とする


由美子一家の変化のきっかけは息子の翔だ。
私立の中高一貫校で高校生になったとたん中退。
やりたいこともなく、欲しいものもなく、努力も嫌いで、口癖は「別にぃ・・・」
ずるずると20歳になった翔は漫画喫茶でアルバイトし、
一生バイト暮らしでいいとさえ言う無気力さだ。

娘の可奈は翔とは正反対だ。
小学校高学年の時に自らお嬢様学校として有名な私立を
受験したいと言い出すが親に反対され、やむなく公立の中高へ。
しかし大学進学時に再びこう言う。
「下手に偏差値が高い大学を狙うより、
お嬢様学校のブランド力がある大学へ行ったほうが得」
なぜなら、若くキレイなうちに高学歴・高収入の男をつかまえて結婚し、
安楽な生活を手に入れてから、やりたいことを見つけるため。
そして、実際に恵まれた容姿をフルに活用し、
エリートたちとの合コンに明け暮れる。
とことん合理的で明確である。

由美子の価値観を作ったのは母親である。
父の死後、母は「医者の未亡人」として父の実家の援助で暮らさず
潔く家を売ってアパートに引越して働き、
女手ひとつで娘2人を大学進学させ、自力で家まで建てるのだ。
この母親は後に登場するが、かなり魅力的なキャラクターである。
彼女は同じアパートに住むよその子供達について
娘たちに繰り返し言い聞かせる。

「ああいう子たちとは住んでいる世界が違うのよ。
世の中にはずうっとアパートで暮らす人と、ほんの一時期暮らす人がいるの。
このアパートで生まれ、このアパートで育った人たちとは根本的に違うのよ」

両親の価値観の刷り込みや
方針・判断(後年、確固としたものではなかったことが判明しても)が
いかに強力で、子供の人生を長きにわたって支配するか
わたしも恐ろしいほど身に沁みて知っている。
子供が自力で気づいた時には手遅れなことも多い。
だから、わたしのそれと形は違えど、由美子がこの年齢で、理屈ではなく
母の呪縛から逃れられないのはよくわかる


翔がオンラインゲームで知り合った珠緒という娘と
結婚したいと言い出したことから騒動は始まる。
珠緒は沖縄の離島で生まれ育ち、高卒で上京してアルバイト暮らし。
沖縄では珍しくないらしいが両親は離婚し
共に別の相手と再婚したので兄弟姉妹が合計8人いるという。
こんな珠緒のバックグラウンドは由美子には問題外。

「教養がなくて下品でお話にもなりゃしない。育ちが違うのよ育ちが」
「それってヤンキーじゃない。そういうのが妹になるかと思うと頭がクラクラしてくる」
そういう可奈も、母に対して辛辣な言葉も忘れない。
「でも教養がないって言っても翔だって中卒じゃない。
世間から見れば「下流の人々」よ。同じ位置に立ってるのよ」

翔の結婚を阻止したい由実子は珠緒に言う。
「うちは主人も私も大学を出ています。
主人は早稲田を出て一流企業に勤めるちゃんとしたサラリーマンです。
私も四年制の国立を出ていますから、
教養あるちゃんとした家だと誰にも言えるわ。
そしてね、私の父親は医者だったんです。
父親の兄も、私の妹の夫も医者をしています。
言ってはナンですけれども、沖縄のどっかの島で
飲み屋をしているあなたの家と違うんですよ」

「医者の娘っていうだけで、そんなにいばれるんですか。
そんなに医者ってえらいんですね。じゃ、私も医者になります」

自分と家族を全否定され、侮辱された珠緒が思わずこう啖呵を切り
高卒アルバイトの22歳で医大受験をめざすところから
話はまたどんどんおもしろくなっていく。
そうそう珠緒というキャラクターだが、最初こそ「うわー」と思うが
実はクレバーでまっすぐで好感のもてる魅力的な人物である。
そして結末は・・・

'10 7 ★★★★★
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by gloria-x | 2010-07-22 14:49 | ブックレビュー

つやのよる/井上荒野


登場人物全員に好感持てず、読後感もすっきりせず・・・
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井上荒野には一時期ハマったのに、
直木賞受賞作「切羽へ」が甚だしく期待ハズレで
以降、個人的にはその感覚が続いていて残念だ。

艶という名前の、性的に奔放で美しい女性と関わった男たち。
その男たちそれぞれの妻、愛人、娘などが章ごとに語り手として登場する。
彼女たちのほとんどは艶を直接には知らないが、
初めてその名前を聞いた瞬間から
艶という女のことが意識の片隅にとりついたようになり、
本能的に警戒心や敵対心のようなものを抱くようになる。


いろんな人物の視点を通して語られる艶という女をはじめ
唯一、男性の語り手である艶の最期の夫・松生、
艶の最初の夫・太田とその愛人etc・・・
出てくる人物(主役も脇役も)&彼らが語る内容すべてに
理屈抜きにいや~な生理的嫌悪を感じた。
一時ハマった好きな作家だけに
単にこの作品と「相性が悪かった」であってほしいけど・・・


'10 7 ★★☆☆☆
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by gloria-x | 2010-07-20 12:13 | ブックレビュー