カテゴリ:ブックレビュー( 184 )

間宮兄弟  / 江國香織 小学館

35歳と32歳の間宮兄弟は二人暮し。
兄・明信は貧相な体型で弟・徹信は小太り。
どっちも恋愛経験ゼロで、彼らを知っている女たちの意見を総合すれば
「気持ち悪い、おたくっぽい、むさくるしい、だいたい兄弟二人で住んでるのが変、
そもそも範疇外、いい人かもしれないけど恋愛関係には絶対ならない」
兄弟でインドア趣味に興じ、「徹底的にモテない」現実を受け入れつつ、
突発的に女性を好きになって玉砕する日常を描く。

江國香織作品でこのタイトルだから、さぞかし危険でイケてる兄弟の話かと思いきや
彼らの描写は生理的拒否反応を起こすスレスレって感じ・・・

~明信はため息をついた。そして、世間にはややこしい恋愛沙汰が
 ごろごろしているらしいのに、なぜ自分の身にだけ起きないのだろうと考えてしまった~

こういう男性って現実にうじゃうじゃいるような気がする。
恋愛できない人というのは本人に問題があるだけじゃなく、
そういう縁や運が素通りしていく人たちなのだろうか?
間宮兄弟は確かにキモいが、救いは二人とも知的で映画や本に造詣が深いこと、
自分たちを客観視できること、そして一応は風俗で童貞を捨てていることか。

兄・明信が思いを寄せる女子大生・直美と、妹の高校生・夕美には
ちゃんと肉体関係のある恋人がいて、ほんとに今どきのフツーの若い女の子なのに
兄弟に対して残酷ではなく、彼女たちの恋人も同様なのが救われる。

'04 12 23 5段階評価★★★★
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by Gloria-x | 2004-12-28 14:48 | ブックレビュー

昔の恋人/藤堂志津子 集英社

昔の恋人と予期せぬ再会をした女性を描いた4つの短編集。

「昔の恋人」
編集者の織美の職場に突然かかってきた電話。
それは若い頃の飲み仲間で十数年も音信不通の城田からだった。

織美と城田みたいな程度の関係で、突然こんな風に連絡があって
「急だけど今から30分でもいいから会えないか」なんて言われたら、
現実的なわたしは借金の申し込みかと思って警戒するだろう。
多少なりとも色っぽい再会を望む相手ならこんな形で連絡してこないはずだから。

「浮き世」
美人で次から次へと男ができる35歳の宇多子は「私はツイているんだ」
と言霊を呼び込むように周囲に言いふらし、自分にも暗示をかけている。
しかし、堅実な暮らしを営む兄だけは彼女自身が目をそむけている
現実を容赦なくつきつけようとする。

こういう女性って実際にいるいる!
一見、モテてるみたいだけど実はきちんとした恋愛が長続きせず、
本心は結婚したいのにできない・・・
ポジティブシンキングはいいことだけど、勘違いは哀しい。

「魔法」
高校時代から憧れの存在で卒業後4年間つきあった府崎と
17年ぶりにばったり再会した睦葉。
女好きで遊び人の府崎にとって自分が都合のいい女だということを
わかっていながら、当時の睦葉は府崎となかなか別れることができなかった。
今は平凡で幸福な人妻になった睦葉に対して府崎は当然のように
「これからもたまに会おうよ」と言う。

恋愛の力関係は明白だ。絶対により多く惚れているほうが弱い。
相手がロクでもない男だということをわかっていて、
そのロクでもない部分をはっきり指摘して別れたいのに、
惚れた弱みでズルズル別れられない。
しかし、そういう恋はいったん魔法が解けてしまうと醒め方も激しい。
再会後の睦葉の行動はある種の「仕返し」で爽快だ。
でも、女がこんなことをする気になるだけ府崎はまだ魅力的な男ということだろう。

'04 12 10 5段階評価★★★★
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by Gloria-x | 2004-12-21 00:07 | ブックレビュー

消し屋A /ヒキタクニオ 文藝春秋

「凶気の桜」を読んだとき、消し屋の三郎という脇役キャラが主役以上に印象的で、
彼を主役にした作品を読みたいとレビューにも書いたら実際に出た!

わたしはヒキタクニオと感性が合うらしい。
映画版「凶気の桜」で三郎を演じたのは江口洋介だったが
わたしは若い頃の成田三樹夫を想像して読んでいたのでどうも不満だった。
すると、本作にこう書かれているではないか!

~ダウンライトの下で見ると若い頃の成田三樹夫の肌質ね。
 いいわよ、掠れて冷たいくせに、しっとりしてるの~

消し屋とは、一人の人間を生きてきた痕跡丸ごと消してしまうプロ。
しかも事件性を残さず、本人の意思で失踪したように見せるのだ。
今回、三郎は新しい戸籍を手に入れ、幸三と名前を変えて
パートナーであるオカマの蘭子と共に博多にやってきた。
そこで依頼された仕事は「福岡ダーエーホークスの名捕手を消せ」
ただし今回は殺しはなし。
いつもとは勝手の違う仕事に天才の技はどう発揮されるのか・・・

幸三はもちろん、蘭子の出番もたっぷりで読み応えあり。
名捕手・真壁誠のキャラも魅力的なので
野球にはまったく興味のないわたしでも楽しめた。
また、食事シーンのディテールに凝っているのもうれしい。
下記のような描写を読むと食べたくなるし、自分でも作りたくなってくる。

~幸三は、豚肩ロースのブロック肉をナツメグ、オレガノなどの香辛料と塩で漬けて
 一週間寝かせ、それを二百度でじっくりとローストしたものをオーブンから取り出した~

~肉を皿に盛り、クレソンを二茎添えた。そしてたっぷりの西洋ワサビとバルサミコ酢
 をステンレスのソースカップに入れ、肉片に寄り添うように皿に載せた~

'04 12 13 5段階評価★★★★
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by Gloria-x | 2004-12-14 20:52 | ブックレビュー

夫の彼女/藤堂志津子 幻冬舎

結婚5年目、33歳の涼紀はある日突然、夫の典比呂にこう言われる。
「おれを独身にもどしてくれないかなぁ・・・」
自分は結婚に向いてないことがわかったという夫は重ねて
「おれが好きなのは女より若い男だから」とバイセクシャルであることを告げる。
そして彼女とはいいともだちでいたいと言い出すのだった。

主人公の涼紀は自分の平凡な容姿にコンプレックスがある。
一方、ルックスがよくて女にモテる典比呂は女性の外見には関心がなく
「おれは女の外見にはこだわらない。見てくれなんてすぐに飽きるからね」と
口に出すのが、涼紀への最大のほめ言葉だと純粋に思っている。
涼紀はそのたびに小さく傷つき、嘘でもいいから夫に
「きれいだよ」「可愛いよ」と言ってほしいと思っている。
こういう微妙で説得力のある心理描写がうまい。

登場人物たちはかなり個性的なキャラクター揃いなのに
嫌味がなく魅力的で、行動やセリフに違和感がない。
特に、涼紀がパート先で知り合い、後にいっしょにバーを始める
ヒトミの存在感がいい味を出している。

著者の名前だけはずっと知っていたが、
もっとある意味「女っぽくて濃い恋愛小説」を書く人というイメージがあったので
このドライで軽やかな作風はいい意味で意外だった。
しかし、一見とっつきやすいカジュアルさは
真の才能、筆力に裏打ちされたものであることが伝わってくるのがすごい。

一流シェフが最高の食材を使って時間と手間をたっぷりかけて作った
コンソメスープというところか。

'04 12 5/5段階評価★★★★★
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by Gloria-x | 2004-12-11 19:48 | ブックレビュー