魔性の馬 Brat Farar /ジョセフィン・テイ

c0008209_2194557.jpg高校生の頃読んだミステリーの名作「時の娘」以来のジョセフィン・テイ作品。

「時の娘」はいわゆる安楽椅子探偵物で、
ケガで動けない警部が退屈しのぎに悪名高いリチャード三世の汚名をそそいで歴史的事実を覆すという英国歴史ミステリー。
歴史物は苦手なわたしでも夢中になり、何年経っても鮮烈な印象が薄れない傑作である。
なぜか日本では「時の娘」一作しか翻訳されていなかったのが、最近になって翻訳されたらしい。


半世紀も前の作品とは思えない現代的で、しかも映像的な傑作!
ロンドン近郊の緑豊かな土地、広大な牧場で競走馬を育てる名家という舞台の美しさ、
登場人物たちの魅力的で個性豊かなキャラクター、
死んだ双子の片割れを名乗る男が8年ぶりに現れるというミステリー要素など、
まるで映画を観ているような感覚でエキサイティングに楽しめる。

翻訳の文体、特にセリフや心情描写が現代的で、
主人公の葛藤などはパトリシア・ハイスミス原作の「リプリー」を彷彿とさせ、
また、彼を取り巻く登場人物たちの織り成す世界は、まるで最近再読した
萩尾望都作品「ポーの一族」や「トーマの心臓」を読んでいるような不思議な感覚もあった。

ロンドンの孤児院で育ち、アメリカに渡って様々な職業を転々とした後、
イギリスに帰ってきたブラット・ファラーという若者が街で見知らぬ男に声を掛けられる。
ロディングというその男はブラットを「サイモン!」と呼び、人違いと気づいた後、驚嘆した様子でブラットの顔を見つめ、強引に食事に誘ってある計画を持ちかける。
ロディングが間違えたサイモン・アシュビーには双子の兄・パトリックがいたが、彼は13歳の時に行方不明になったまま自殺したとされていた。
ロディングはブラットに、パトリックになりすましてアシュビー家の当主となれとそそのかす。
そして、パトリックとアシュビー家に関するすべての知識を短期間でブラットに教え込む。

主人公のブラット、双子の生き残りである邪悪だが魅力的なサイモン、
両親亡き後、子供たちを育てて財産を守ってきた陽気な叔母ビー、
三人の妹たち、美しく知的なエレノア、男勝りなジェーンとおませなルースという
対照的な双子、小悪党ロディング、寡黙な牧師と美人の妻などなど
個性豊かなキャラクター造形が秀逸!

'08 7 ★★★★★
[PR]

by gloria-x | 2008-07-06 22:50 | ブックレビュー