井上荒野 ~最近ハマっている作家~
最近、この人の著書を立て続けに読んでいる。数年前に読んだ「もう切るわ」は、正直それほど好きになれなかった。
レビューにもいい評価をつけず、その後しばらく手に取ることもなかったのだが、
たまたま読んだ数冊は作家としての著しい成長がはっきり現れていて一気にハマってしまった。
「もう切るわ」はデビュー後第一作だったらしく、「ひどい感じ 父・井上光晴」に明かされているタイトルのエピソードが意外で印象深かった。
「もう切るわ」の帯コピーに江國香織の評が使われていて、
わたしは「いかにも江國香織が好きそうな世界」と書いているのだが、
文学者の父を持ち(共に故人)、小説以外に翻訳も手がけているなど
実際、両者には共通点が多い。
「だりや荘」
突然事故死した両親の経営するペンションを引き継ぐことにした若い夫婦。
そこには美しく、壊れそうにはかない妻の姉がいた。
途中で江國香織の本を読んでいるような錯覚さえ覚えたほど。
姉のキャラクターや生活感の無さなど、まさに江國ワールド!
しかし、「模倣」とか「二番煎じ」とはまったく感じない。
呆れるほどドロドロした人間関係をよくぞここまでサラリと描けるものだと感心した。
江國作品もほぼ全作読んでいるが、わたしはドライで自己愛的な空気が少ない
井上荒野の作品世界のほうが肌に合って好きだ。
「誰よりも美しい妻」
まずタイトルのインパクトに惹かれる。
装丁の写真も作品のムードにぴったり。
バイオリニストの夫と12歳の息子と暮らす園子は誰もが認める美しい女である。
誰よりも園子の賛美者である夫は臆面もなくそれを口に出す。
しかし、夫は次から次へ若い女と恋愛することをやめられない。
そして夫の恋愛に気づきながら、気づかないフリをすることに心を砕く園子は夫の共犯者である。
園子がいなければ生きていけないほど彼女にぞっこんでありながら、次々に恋愛をする夫のキャラクターが秀逸!
女として嫌悪すべき人物なのに、不思議な可愛げがあって憎めないのだ。
読み終えるのが惜しいような、不思議に心地いい小説だった。
「潤一」
潤一という名の一人の男と関わった、年齢も背景も様々な女たちが彼について語るという形式の連作短編集。
主人公の潤一は28歳。
住所不定、無職で特別にルックスがいいというわけではない。
それなのに、タイプも年齢もバラバラな女という女がなぜか磁石のように惹きつけられてしまい、彼の存在を強く心に残すのである。
そして、当の潤一はそんな女たちの間を、
無責任かつ無感動にふわふわ、飄々と漂っていくのだ。
最後に個人的なことだけれど、最終章の潤一自身の語りまで読み終えて、
わたしの祖父はたぶんこんな男だったんだろうなぁと腑に落ちたような気がした。
いつか作家になって祖父のことを書きたいと子供の頃から思っていたのだが、
父親の存在を色濃く反映させつつ見事に昇華させた井上荒野の作品などを読んでしまうと、わたしにはやっぱりそんな才能はないなぁと思うのである。
レビューにもいい評価をつけず、その後しばらく手に取ることもなかったのだが、
たまたま読んだ数冊は作家としての著しい成長がはっきり現れていて一気にハマってしまった。
「もう切るわ」はデビュー後第一作だったらしく、「ひどい感じ 父・井上光晴」に明かされているタイトルのエピソードが意外で印象深かった。
「もう切るわ」の帯コピーに江國香織の評が使われていて、
わたしは「いかにも江國香織が好きそうな世界」と書いているのだが、
文学者の父を持ち(共に故人)、小説以外に翻訳も手がけているなど
実際、両者には共通点が多い。
「だりや荘」
突然事故死した両親の経営するペンションを引き継ぐことにした若い夫婦。
そこには美しく、壊れそうにはかない妻の姉がいた。
途中で江國香織の本を読んでいるような錯覚さえ覚えたほど。
姉のキャラクターや生活感の無さなど、まさに江國ワールド!
しかし、「模倣」とか「二番煎じ」とはまったく感じない。
呆れるほどドロドロした人間関係をよくぞここまでサラリと描けるものだと感心した。
江國作品もほぼ全作読んでいるが、わたしはドライで自己愛的な空気が少ない
井上荒野の作品世界のほうが肌に合って好きだ。
「誰よりも美しい妻」
まずタイトルのインパクトに惹かれる。
装丁の写真も作品のムードにぴったり。
バイオリニストの夫と12歳の息子と暮らす園子は誰もが認める美しい女である。
誰よりも園子の賛美者である夫は臆面もなくそれを口に出す。
しかし、夫は次から次へ若い女と恋愛することをやめられない。
そして夫の恋愛に気づきながら、気づかないフリをすることに心を砕く園子は夫の共犯者である。
園子がいなければ生きていけないほど彼女にぞっこんでありながら、次々に恋愛をする夫のキャラクターが秀逸!
女として嫌悪すべき人物なのに、不思議な可愛げがあって憎めないのだ。
読み終えるのが惜しいような、不思議に心地いい小説だった。
「潤一」
潤一という名の一人の男と関わった、年齢も背景も様々な女たちが彼について語るという形式の連作短編集。
主人公の潤一は28歳。
住所不定、無職で特別にルックスがいいというわけではない。
それなのに、タイプも年齢もバラバラな女という女がなぜか磁石のように惹きつけられてしまい、彼の存在を強く心に残すのである。
そして、当の潤一はそんな女たちの間を、
無責任かつ無感動にふわふわ、飄々と漂っていくのだ。
最後に個人的なことだけれど、最終章の潤一自身の語りまで読み終えて、
わたしの祖父はたぶんこんな男だったんだろうなぁと腑に落ちたような気がした。
いつか作家になって祖父のことを書きたいと子供の頃から思っていたのだが、
父親の存在を色濃く反映させつつ見事に昇華させた井上荒野の作品などを読んでしまうと、わたしにはやっぱりそんな才能はないなぁと思うのである。
by gloria-x | 2008-05-01 12:03 | ブックレビュー