バレンタイン/柴田元幸

初の小説集ということだが、エッセイと小説の中間という印象。
「バレンタイン」で始まり「ホワイトデー」で終わる構成は
一見ベタなように思えるが、作品の内容と空気は
まったく甘くてベタなものではないのが気が利いている。

「午前三時の形而下学」の中で著者はこんなことを書いている。
~午前三時プラスマイナス15分頃にふと目覚めると、
様々な心配事や不安がとめどなくふくらんで、再び安らかな眠りには戻れない~


わたしは3年ほど前の一時期、不眠症になったことがあるが、
午前三時前後に目覚めてしまうとまさにこの状態だった。
山積した問題がどっと押し寄せ、過剰なほど肥大し、
思考がどんどん悲観的な方へ突き進んでへとへとになったものだ。

著者によると
スコット・フィッツジェラルドに「魂の闇夜にあっては、つねに午前三時である」
という有名な言葉があって、午前三時の目覚めは文学的なのだそうだ。

でも、あの魂の闇夜から解放された今、文学的なんかじゃなくていいとつくづく思う。

著者の中には一貫して「現実の人生をふっと逸脱して
まったく別次元で営まれているもうひとつの自分の人生を生きてみたい」
という願望があるようだ。しかし、どう見ても実人生の方が幸せなのは
一種の自虐的な幻想なのだろうか。それとも実人生への満足度の確認なのか。

「ケンブリッジ・サーカス」「ホワイトデー」がよかった。

'06 10 ★★★☆☆
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by Gloria-x | 2006-10-30 21:49 | ブックレビュー