細雪 '83(日)/原作:谷崎潤一郎 中公文庫 

c0008209_21234626.jpg「細雪ごっこ」と称し、母と三姉妹揃って着物で
京都へ花見に出かけたことがある。
母が着物好きで娘三人ということもあり、
実家にはたくさんの着物がある。
残念ながら姉妹の誰も自分で着付けはできないし、
今の住まいには着物用の箪笥もないので、

母が亡くなったらあの着物たちはどうなるのかちょっと気になっている。
めったに機会はないが、たまに着物で出かけると優雅な気分になってよい。
公開当時母と劇場で観たが、改めて観なおして京都の花見を思い出し、
母に勧められていた原作も読んでみる気になった。

大阪船場の旧家、蒔岡家の美しい四人姉妹・鶴子、幸子、雪子、妙子。
婿養子を迎えて芦屋で分家を構える幸子の視点を通して、
なかなかまとまらない雪子の縁談や
奔放な妙子の恋愛がらみの事件を中心に、関西の名家の優雅な生活を描く。

原作は昭和初期の日本文学で大長編(文庫で上・中・下3巻分)
にもかかわらず予想以上におもしろく、
冒頭から物語世界に没頭してあっという間に読了。

さすが谷崎潤一郎、死後も名作として読み継がれるだけのことはある。
個性豊かなキャラクター造型と心情描写が抜群!
姉妹ならではの嫉妬や軽い憎しみ、二人寄るとその場にいない姉妹のことを
良かれ悪しかれ当然のように話題にするなどの描写にも大いに共感した。
谷崎は関東人だが関西の風土・文化、
特に女性の関西弁に惚れこんで絶賛していたらしい。
わたしは関西人なので問題なかったが、関東の人が読むと
セリフに込められた感情を汲み取るのが難しく、馴染みにくいかもしれない。

ところで、映画でも羨ましかったが、次女幸子ほどしあわせな女性はいないのでは?
金持ちの娘として贅沢三昧に育ち、婿養子の夫は優しく気のつく愛妻家。
一人娘の世話は子供好きな妹がしてくれるし、家事は女中がやってくれる。
きれいに着飾って芝居を観にいったり、舞や琴の稽古をしたり、
ちょっと忙しい日が続くと夫が旅行に連れ出してくれる・・・・
ああ、生まれ変わったらこんな身分になりたい。

三女・雪子は「女に嫌われる女」ワースト1に輝くのでは?
実の姉妹に対してさえ自分の意見を言うどころか
「はい、いいえ」すらほとんど声に出さず、
いつもモジモジして感情も表さず、そのくせ頑固でプライド高く
どんな場面でも静かに我を通す。周りの人間が気を遣いすぎ!
だけど、こういう女ってたしかに実在するよなぁ・・・

物語の全編通して雪子の見合いにまつわるエピソードが中心なのだが、
姉やその夫が自分の縁談のことで他人に気を遣い、骨を折り、
いろいろ苦労しているのに雪子はまるで何様状態。
特に気になったのが、彼女について「黙ってニヤニヤしているのだった」
という描写が再三出てくること。これが雪子のキャラを一層食えないものにしている。
それに比べて四女・妙子は現代に十分通じる恋愛観、人生観の持ち主で魅力的な存在。

映画では幸子の夫、貞之介が雪子に思いを寄せているように描かれ、
雪子もそんな義兄の気持ちを試すように媚態を示すシーンがあったが、
原作では一切そういう描写はなく、貞之介は愛する妻・幸子のために
妹の雪子や妙子にも尽くしている。
原作のエッセンスだけを抽出した映画では、話が単調になりすぎるために
そういう設定にしたのだろうけど、物語そのものの印象を変えて玉に瑕だった。

'05 10 映画★★★★☆ 原作★★★★★
監督:市川崑
出演:岸恵子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子
   伊丹十三、石坂浩司
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by Gloria-x | 2005-10-19 21:41 | 映画レビュー