レキシントンの幽霊/村上春樹 文藝春秋

村上春樹という作家はわたしにとって不思議な存在だ。
好きな作家のひとりには違いないが、
タイミングをひとつ間違えば読むのが苦痛といっていいほど退屈で、
文章を目で追っているだけになりかねない。
(その代表が「ノルウェイの森」)
一方、タイミングが合えばその世界に完璧にハマってしまい、
抽象的、観念的な表現で書かれた文節でも
「理解する」というより、水がしみこむように浸透してわたしを満たす。
それは、元から自分の中にあった感覚や感情を確認している感じだ。
(その代表が「スプートニクの恋人」と
「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」

翻訳家としての春樹作品にも好きなものが多い。
カーヴァーはもちろん、M・ギルモア「心臓を貫かれて」は生涯ベストに入る一冊。

前置きが長くなった。この短編集はそういう意味ではタイミングがよかった。
非常に純文学的な作品群で、時期を間違って読めばまったく受けつけなかっただろう。
中でも「トニー滝谷」の存在感はすごい。
著者がハワイで偶然「TONY TAKITANI」と書かれたTシャツを入手し、
そこからイマジネーションをふくらませて書いたというドラマチックな物語。
同名の映画の存在は知っていたが村上春樹原作とは知らなかった。
映画も観たい。(DVDは'05年9月発売予定らしい)

'05 8 ★★★★☆
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by Gloria-x | 2005-08-12 17:32 | ブックレビュー