オリンピックの身代金/奥田英朗

読み始めたら止まらない、息をもつかせぬサスペンス!

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「著者の新境地にして最高傑作」という帯のコピー通り!
あまりのおもしろさに、数日間むさぼるように読みふけりました。
映像化してほしいな~。映画がムリならWOWOWドラマで。
主人公・島崎にはオダギリ・ジョー(ただしもっと以前の旬の頃の・・・)

昭和39年夏。オリンピック開催に向けて
東京は世界に冠たる大都市に変貌を遂げようとし
国民は一丸となって戦後最大の国家的イベントに熱狂していた。
そんな中、警察を狙った爆破事件が発生し
「東京オリンピックを妨害します」という脅迫状が届く。
捜査線上に浮かび上がったのは一人の東大生だった。


「人間が描けていない」は、つまらない小説に対するお決まりの批評である。
売れっ子ミステリー作家の中にも該当者は少なくない。
ミステリーとしての設定や仕掛けには感心させられるが、
登場人物がステレオタイプだったり、キャラの作り込みが浅いために
読んでいて物足りなく引き込まれないのである。

その点、奥田英朗の人間を描く才能にはいつも舌をまく。
彼の作る登場人物は、まるで目の前に現れ、呼吸し、
動いているかのようにリアルで説得力がある。
また、様々なタイプの人間を自在に描き分ける技にも感服だ。


島崎国男は秋田の貧農出身。
中学を出たら長男は農業を継ぎ、次男以下は集団就職。
家を継いだ長男も農繁期以外は出稼ぎ。
それ以外に人生の選択肢はない。
しかし、勉強ができた国男は
中学教師の熱意によって奨学金で高校に進学。
さらに、東大に入って村では伝説の人物となる。

ある日、大学院生となった国男のもとに故郷の母から電報が届く。
15歳年上の長兄が出稼ぎ先の東京で死んだという報せだった。
牛や馬のように使い捨てされる過酷な労働環境を知り、
まったく夢も希望もない兄の人生に想いをはせたことが
国男にある決意をさせる。
それは兄の代わりにオリンピック特需の工事人夫として働くことだった。
そして、その体験が国男の人生を大きく変えてしまう。

日本がイケイケだった時代の風俗やファッションもおもしろい。
島崎と東大の同窓生でTV局勤務の須賀は
元華族の家柄で、父親は警察幹部という一族のはみ出し者。
ポロシャツにバミューダパンツで真っ赤なスポーツカーを乗り回し、
「C調」「しょってらぁ」「ブーヤでシース(渋谷で寿司)」などなど
セリフも時代感満点。

東京生まれのボンボンで、東大出なのにダサくない。
自分ではイケてるはずの須賀は
「どうしてあんな陰気臭い男に次々と女が訪ねてくるのか。
なんであいつばかり心配されるのか」と国男に軽く嫉妬する。
ちなみに国男は「歌舞伎役者のよう」と評されるような
長身痩躯の色白優男で、穏やかで物静かな青年である。

主人公・島崎国男のキャラが特に魅力的なのは言うまでもなく、
須賀のほか、警視庁の個性豊かな刑事たち、
「箱師」と呼ばれる列車専門スリで前科八犯の老人・村田、
東北出身の出稼ぎ労働者たちなど
多才な階層のバラエティに富んだキャラクターが登場する。
そして、そのどれもが圧倒的なリアリティを感じさせる。


私利私欲ではなく義憤のためにオリンピックを人質に取る島崎国男、
国家最大のイベントであり、国民の夢であるオリンピックを成功させるため
島崎の犯行を阻止し、逮捕しようとする警察。
どっちに感情移入し、味方したくなるかといえば・・・


'10 9 ★★★★★
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by gloria-x | 2010-09-12 14:00 | ブックレビュー