不信のとき/有吉佐和子

高度成長期のサラリーマンの倫理観ってこんなに乱れてたの!?


c0008209_13205282.jpgc0008209_1321390.jpg昭和40年頃の東京が舞台なのだが
まるで時代劇を読んでるほど隔世の感!

日本がすごい勢いで経済大国になっていく時代。
そこそこ大企業のサラリーマンとはいえ
ほぼ毎晩銀座のクラブをハシゴ、
妻にバレてもバレても何度も浮気、
ついに銀座のホステスに子供を産ませ、
自らを出世街道に乗り、女にはモテ、
甲斐性もあり器用な男だと
勝手に悦に入ってる主人公。
平成日本じゃ考えられない感覚です。


浅井義雄は企業の広告宣伝部の商業デザイナー(後に宣伝部長に出世)
専業主婦の妻・道子と結婚15年で子供はなし。
過去に取引先の女子社員や人妻と浮気(本人曰く本気の恋愛)をしている。
人妻の時は相手が妊娠したため、トボけて逃げたという最低の男である!
どの面下げて本気の恋愛なんだか・・・
しかも毎回妻にバレ、大変な騒動になったにも関わらず
「これから素人はやめよう」ですと?懲りない奴!

そんな浅井が銀座のバー(現在のクラブ?)の
ホステス・マチ子に「浅井さんの子供が産みたいの」と言い寄られる。
人妻とのことがあるだけに警戒する浅井だが
「認知はしなくていい、お金もいらない。わたし一人で育てて迷惑かけません」
と言われてその気になってしまう。

素人女はこりごりだけど、情事は楽しみたい。
外に女は欲しいけど、妾として囲うほどお金は出したくない。
子供はちょっと重いけど、責任取らなくていいなら「ま、いいか」
いったい何様?って感じなのだ。

とにかく主人公の浅井、名は体を表すの通り底の浅い男で
読めば読むほど自己中で薄っぺらな最低さに呆れてしまう!


マチ子は浅井にいつでもウェルカム状態で
手料理でもてなし、浴衣まで用意していたれりつくせり。
そんなマチ子に浅井は月3万円をお手当てとして渡す。
当時の3万円って今のいくらくらいなんだろう?
後に、マチ子に「ミルク代にしかならなかった」と言われ
道子には「3万円も渡してたんですか!」と詰られる。
ちなみに月給から小遣いとしてもらっていた金額が3万円である。
(浅井には会社に内緒のデザインのアルバイトで副収入がほぼ月給程度あるという設定)

臨月になるとマチ子は故郷の静岡に帰って出産。
つわりや出産時の苦しみなど醜い姿はいっさい浅井に見せず
すっきり晴れやかな顔で女の赤ん坊と共に浅井を迎える。
そのくせ、本気で浅井に惚れているという感じはせず、何か魂胆がありそうで、
いつ本性を現すのか、いつ浅井がハメられた!と凍りつくのか
かなり気をもたせるキャラクターだ。

一方、妻の道子は夫の心を外に向けさせないため
毎朝早く起きて完璧な化粧と着物で身だしなみを整え、
浅井が深夜に帰宅してもそのままの姿で迎える。
週刊誌を熟読しては「ムードのある寝室づくり」を実践したり
夫に朝からステーキなど食べさせてスタミナをつけたり、涙ぐましい努力である。

夫婦に子供ができないのは道子に原因があるという暗黙の了解で
浅井は「子供さえ産めば君は完璧な妻だよ」と無神経な発言で道子を傷つける。
夫に依存するより他にない主婦と思われた道子が
途中で女流書家として活躍していくあたりから話はおもしろくなってくる。

道子の父親は書道家で、代々加賀藩の祐筆の家系という設定。
家計の足しにと自宅で始めた書道教室が予想以上に繁盛し、
丸の内のカルチャーセンターの講師も依頼されるほどになる。

さらに、不妊症と思われていた道子が妊娠し、男児を出産するのだ。
経済力も浅井を凌ぐほどになった道子は家を増改築し、
息子の育児に専任の看護婦を雇う。
この時期の浅井のこっけいなほどの狼狽ぶりと卑怯さの描写も秀逸!

やがて道子が日展に入選。
美人女流書家としてマスコミにもてはやされる。
一方、マチ子は週刊誌で浅井の妻がただの主婦ではないと知り、
しかも子供ができていたことを知って
今までの控えめな態度から少しずつ変貌していく。
そして、ついに・・・

当時のサラリーマンの豪遊ぶりにもびっくりだけど
妻以外に子供を産ませることに対する軽々しい感覚にも驚愕!
現代のヤンキーカップルと変わらない、いや、もっと無責任かも。


浅井の取引先である印刷会社社長・小柳との会話で
夫婦間に子供がいないことを知ると、
小柳は当然のように「外には?」と尋ね、
浅井も悪びれず「実は一人いるらしいです」
すると小柳は驚きもせず、一人だけとは意外という風な顔をする。
それが浅井や小柳にかぎった感覚ではなく、
浅井の会社の重役たち、病院の付添婦、マチ子の弟夫婦をはじめ
「褒められることではないが、厳しく糾弾するほどでもない。
男性なら誰でも身に覚えのあること」と捉えているようで
一種の社会通念みたいな描き方をされているのだ。

昔の小説を読むと、たいてい
「あ~こんな窮屈な時代に生まれなくてよかった」と思うのが常だが
これは逆に
「日本ってこんなになんでもアリだったの?
今の若いもんの方がよっぽど純粋じゃん!」と安心した次第・・・



'10 9 ★★★★☆
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by gloria-x | 2010-09-05 19:25 | ブックレビュー